魔法のつまみ

あ、言っておきますが・・・今日の記事。
久しぶりに書いた記事のわりに・・・
読んでものすごく腹が立つ内容かもしれません。

そういう場合は、いつものことですが、無理して読み進める必要はありません。

あなたは、グライコという機器をご存知でしょうか?
そうそう、グラフィックイコライザのことです。

可聴帯域をいくつかに分割して、その帯域ごとの増減をすることで、
希望の音質を作り出す仕掛けです。

分割数(バンド数といいます)は普及機だと10とか20あたり、
音楽制作の現場だと48以上というのもあるそうです。

もちろん、バンド数が多いほどきめ細かな調整ができます。
(その分高価になりますけどね)

たとえば、高域・低域をばっさりカットしてしまえば、
超Hi-Fi音源でも電話や昔のAMラジオみたいな質感にすることができます。

また、昭和の頃の歌謡曲でも中域を抑え気味にして
高域・低域をブーストすることでいわゆる「ドンシャリ」な感じに
すれば、現代のメタル的な効果を演出できます。

こんな風に使い方によってはとても便利な仕掛けなわけです。

さて、このグライコ。

ある機能が追加された新製品が発表された、としましょう。
こんな宣伝文句で。

 

どんな調整オンチでも、このスライダを動かすだけで、
それまでの試行錯誤がウソのように音質が良くなる!

そんな、魔法のつまみが付きました!

 

 

(笑)。

信じられます?

私なら、絶対に信じません。

ええ、ご安心下さい。
ただのたとえ話ですから。

大体、そんなもの作れるわけがありません。

だって、あなたもそう思ったでしょ?

 

ではここで質問です。

なぜそんなもの作れるわけがないのでしょうか?

はい、考えて、考えて。

 

 

 

考えた?

本当に?

・・・って、簡単ですよね。

それは、

ジャンルや求める演出、表現したい表情や雰囲気などに応じて、
調整の内容(=各つまみの位置)は千差万別だから

です。

ある楽曲にふさわしい調整内容と、
別の楽曲にベストな調整内容は同じになるとは限りません。

むしろ正反対なものになることだってありえます。

セッティング、つまり各つまみの位置の組み合わせの数は
ちょっと想像しただけでも膨大です。それこそ星の数ほどにもなるでしょう。

もちろん、ジャンルによってある程度の傾向を割り出すことは
できるかもしれません。

たとえば、ロック・メタル系なら昨今ではややドンシャリ目に調整するのが流行です。
ダンス系なら低域強調気味で逆にややハイを抑える、とか。

そうした「調整の組み合わせ」を経験から編み出し、
それによって(表には出てきませんが)名アルバム・名作の
影の立役者になったサウンドエンジニアが大勢いるわけです。

R&B系の調整ならこの人の右に出るモノはいない、とか、
ライブ録音ならこの人に任せるのが手堅い・・・

とかね。

ただ、こうした組み合わせや傾向を「どの程度強調するのか」
ということについては人の好みや時代を反映したモノになるのは
想像がつくでしょう。

いずれにしても、「ひとつに統合なんてできない」ってことです。

だからこそ。

どんな人にも、どんな場面にも、どんな要求にも合うセッティングを、
たったひとつのつまみで作り出す・・・

これが

いかに無謀で現実性の乏しい、するだけむなしい願い

なのか、すぐおわかりですよね?

で、もしですよ。

「そんなつまみはないのかなぁ」と言いながら必死になってそれを探している人を
もしあなたが見たら・・・

あなたはおそらくこう思うのではないでしょうか?

ねえ、君、君。

そんなことしてないでさ。

それぞれのつまみをいじりながら、自分にとっての
ベストな調整位置の組み合わせを一つでも多く探し出そうよ。

それが、君にとっての最大にして最強の財産になるはずだよ。

まったく。

その通りですよね。

あれ?

馬鹿にするな、って?

あ、気がつきました?(笑)

そうです。

誰でもわかるものすごい当たり前な話しをしてます。

でもね。あえてお尋ねします。
それがわかっているなら。
なんでこんなことを知りたがるのでしょうか?

 

 

 

 

○○○の「コツ」を教えて下さい。

 

 

 

この「コツ」という言葉が曲者です。

もし、これが

「何かを実現するに当たっての重要な要因」

を意味しているなら、それに答えられる人はきっと大勢いるでしょう。

要は、「ポイント」と置き換えてもいいですね。

でも、

「『それ』を知るだけで、さっきまでできなかったことを、
たちどころに出来るようになる魔法」

を意味しているなら。

 

 

 

 

そんなもの、誰も知りません。

 

 

 

話はそれますが、私がなりわいとしているIT業界では、
ソフトやシステムの開発プロジェクトが納期に遅れたり、
予算をオーバーしたりすることが、実はよくあります。

で、そういうトラブルを避けるための魔法のやり方を指して
「銀の弾丸」と呼んでるんです。

この手のトラブルは、本来あってはならないことですが、
ほんの些細なことが原因で容易に起こってしまうのです。

だから逆に、業界内でしっかり成果・実績を出し続けている人は、
さぞかし立派で特別な銀の弾丸を持っているんだろう、と思えます。

でも、こういう成果を出し続けているどの人に尋ねても、
必ずと言っていいほど同じ答えが返ってきます。

「銀の弾丸は存在しない」

とね。

意外に感じますか?

そもそも、彼らが実績や成果を出し続けているのは、
別に「銀の弾丸を持っているから」ではありません。

ケースバイケースで、どんな方法をどの程度用いるか、
それをその都度考え、それに慣れているからです。

サウンドエンジニアがどのつまみを動かすとどうなるかを知っていて、
かつその組み合わせのパターンをたくさん知っているのと同じです。

これさえやっときゃOK、みたいな万能薬はないし、
このクスリなら飲めば飲むほど良い、そんなクスリもありません。

彼らが使うやり方は何も「銀の弾丸」や「魔法のつまみ」のような、
「なにやら、とてつもなく特別なこと」なんかではないんです。

むしろ、誰でも知っているような当たり前の方法だったりする。

その代わり、彼らは何をどの程度用いるのが適切かを知っています。

そう、経験からね。

魔法のつまみを探すのをやめ、
地道で、確実に自分が取り回せる古ぼけたやり方を武器に、
自分の頭を使うことをいとわない人。

本当のコツや魔法があるとすれば、そのありかは、
その人の頭の中です。

何をどの程度用いるのか。

それは、あなたが自分で決めなきゃならないんです。

これって重要なことですよ。

何を選ぶか。どのぐらい用いるか。

それってそのままあなたの個性になるんですから。

早くうまくなりたいのはわかります。
誰だってそうですよ。
もちろん私だってそうです。

でも、それなら。

 

 

今日でやめにしませんか?

 

 

銀の弾丸や魔法のつまみを探し続けるのは。

その時間があるなら、

地道で、でも確実に取り扱える事実を積み重ねながら、
誰にもまねできないあなただけのスキルセットを作る方に向ける。

その方がはるかに現実的で、結果的には早道。

しかも、

他の人がおいそれと真似できない凄みがもれなくついて来る。

ま、どうしてもインスタントがいいってのなら、
無理にとめたりはしません。

でも、行列の出来るラーメン屋で、インスタントラーメンを出している店は
おそらくないでしょうね。

「魔法のつまみ」への6件のフィードバック

  1. こんにちは、たかざわです。
    フレデリック・ブルックスさんのおっしゃる ”銀の弾丸は無い” はSoftware関連だけではなく、Dsの鍛錬でも同様だと言うお話ですね。
    stvjr様のお話を読めば 「その通りごもっともなお話です」 と自然と納得するのですが、普段はそんな事を全く考えては居ませんでしたので正直言いますとスゴーく意味深い事を教えていただいた気がします。
    なにかウケウリでも何でも好いからすぐに友人にも(何故か上から目線で)話して聴かせてやりたくなっちゃいました。

    さて、
    然しながら、
    拝読していてぜんぜん別の事なんですがちょっと考えてしまいました。
    自分の場合はまったく自己一人で練習していますので自分では気の付かない不味い部分(悪い癖のような・・・ チョットした過ち)が随所に在るのだろうと推察しています。この点を達者からご指導戴ければこれは当然 ”コツ” とは違いますが、意識せずに誤っていたボクにしてみれば正に ”コツ” みたいに映るのだろうなぁ~と言う事です。

    とは言いましても現在自分の置かれています居住環境からはDSスクールに通う事は叶いませし、知合いのドラマーも周囲には居りませんので、先ずは自分で認識している弱点から自分なりに練習方法を考えて、克服して行くことしかないのですが・・・  
    然もこれですら手一杯ですし・・・ 
    (でも、若し、自分の認識が誤っていたらどーしよー???) 

    あ~路は長く、そして遠いですね。

    んじゃー、今晩も家に帰ったらまた練習台で楽しもう!

    では。

  2. 高澤さん、こんばんは!

    ありがたいコメントいただきながら、忙殺されて返信できずにいました。
    ごめんなさい。

    えっと、

    > 先ずは自分で認識している弱点から自分なりに練習方法を考えて、克服して行くことしかないのですが・・・  
    > 然もこれですら手一杯ですし・・・ 

    いえいえ、これで良いんですよ!
    丹念に高澤さんにしか辿れない道をたどる。
    それが、他では得られない要素や組み合わせを創り出していくんです。

    > (でも、若し、自分の認識が誤っていたらどーしよー???) 
    > あ~路は長く、そして遠いですね。

    とはいえ、誤っていたらどうしよう、という気持ちはよくわかります。

    こと表現や自分らしさについてはまったくセオリーなんてありません。

    でも、ドラムという楽器やその使われ方の歴史の上から、
    「大雑把なめやす」程度のものはたしかに存在し、それを知っておくと
    便利なことが多いとは言えます。

    その辺の情報もおいおい提供していければと思っていますので、
    よろしければご声援お願いいたします!

  3. 明神(あけがみ)

    stvjrさん

    明神(あけがみ)です。

    そう・・・みんなはリスクの無く1分も掛からない魔法を期待している。
    本当はRPGでは魔法は魔法力(MPですね)を使用することで肉弾戦では得られない攻撃や
    攻撃を助ける効果を発揮させるんです。本格的なRPGだと超強大魔法は攻撃力が高いが
    MPを大量消費するだけでなく魔法の効果を発揮するのに用いる言葉を唱える詠唱だけで
    攻撃のターンを何ターンも消費するものです。

    すべて対価を払うことでしか望むべきものを手に入れられないということです。
    安価には手に入らない。
    それに人間の技術となると日々の努力と考察です。

    私はこれを実体験しています。
    ちょっとかいつまんでお話します。
    ドラム関連で無いのでつまらないかもしれないですが・・・。

    皆様はデスメタル・グラインドコア・ブラックメタルで使用される声で、「グロウルヴォイス」
    というのをご存知ですか?日本のみで流通してる言葉だと「デスヴォイス」とも言います。
    どんなものかというと、音程が無くひたすら低音で蠢き続けるものです。人力低音ノイズに
    近いかもしれません。メタル以外では使い物にならない声です。歌詞も不明瞭になります。

    ・・・実は、私出せるんです。しかものどを潰さずに。
    (もちろんもっとレベルを上げる必要があります。が、出せます)

    メタルを知っているバンドマンさんにカラオケで披露すると、皆さん喜んでくれます。
    もちろん、どうやって出すの!?とも聞かれますよ。

    ・・・でも、困ったことに。
    この記事でいう「魔法」を探しに質問しに来るヴォーカリストさんがいらっしゃった。
    しかし、経験から出る私の言葉は手がかりだけであり、そのヴォーカリストさんの声帯と腹筋の
    神経を作り変えて人間業で無いような極悪のグロウルヴォイスをたった1分で出るようには
    出来ないのです。
    彼はさもそれがあるように私に問い詰めた。

    私が出来た理由?それはありますけど、ありふれたものですよ。
    私の場合はとてもシンプルですが、過去に極悪なグロウルヴォイスを出してきたグロウラー
    (グロウルヴォイス専門のヴォーカリストのことです)たちの出し方に対するイメージをたった2つと、
    そして具体的な体の動かし方をたった1つだけ・・・それを自分の心に深く刻み。
    練習中何度ものどを潰しながらほぼ毎日3年半トライ&エラーを繰り返し・・・
    やっとのどを痛めずにグロウルヴォイスを出すことに成功したんです。

    #ひとつ言うなら「何があっても絶対あきらめなかった結果」でもありますがw

    本当に
    ・魔法のつまみ
    ・銀の弾丸
    ・行列が出来る店で出されるすばらしい味そのまんまの即席ラーメン
    ・唱えれば想っている女の子が自分にべた惚れしお嫁さんになってくれるすごいお経(笑)
    ・・・なんてのは存在しないんですよ。

    それを伝えたく、今回長いメッセージをしたためました。
    あわゆくば皆さんに伝わればよいのですが・・・。

    何卒、宜しくお願い申し上げます。

    錬鉄のグロウラー兼ドラマー
    明神(あけがみ)

  4. > すべて対価を払うことでしか望むべきものを手に入れられないということです。
    > 安価には手に入らない。
    > それに人間の技術となると日々の努力と考察です。

    おお、ここに気がつかれてますか!
    そうなんですよね~

    実は身の回りのことって、良く見ればすべて
    「交換」によって成り立ってますからね。

    例えば貨幣と品物・サービスを交換するのが経済活動。
    知識や考え方を吸収し成長した姿を師に返すのが教育。

    こうした社会のことは言うに及ばず、実は自然界ですらもそうです。

    生命活動は個体と外界とのエネルギー交換という側面があります。

    原子核の中を除いてみると粒子を交換しあうことによって
    その形を維持したり変化させたりしています。

    そうやって見てみると、
    何も自分は何も失うことなくただひたすらに得るのみにこだわるのは
    不自然だし、不合理なんです。

    一方的に引き込めば得だと感じる錯覚が底にあるように思えてならない。

    一方的に引きこんで貯めこみせき止めるのではなく、
    むしろ流して回すことによってより多くを得ることができるんですが・・・

    なんたって気が付きにくいことですからね・・・

  5. stvjrさん

    明神(あけがみ)でございます。

    「魔法のつまみを探すな」という言葉が、実際に教則DVDの冒頭で言われていたので紹介します。

    ・The Language Of Drumming/Benny Greb

    意訳するとこんな感じです。
    「もしあなたが楽器を使って自己表現をしたいと本当に望むなら、近道を見つようとしないでください。」
    ※「つまみ」ではなく「ショートカット」という直接的な表現になっていましたがw

    よろしくお願い致します。

    明神(あけがみ)

  6. 明神さん

    stvjrです。
    いつもコメントありがとうございます。

    おお、あのDVDまだ観たことないんですが…
    ベニグレさんがそんなことを!

    嬉しいですねぇ♪
    情報シェアありがとうございます。

    私も買って観てみよう!

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